なのりそ考③-なのりそ=ホンダワラが通説となった理由

ホンダワラ
ホンダワラ photo by 三重大学大学院 藻類学研究室

「なのりそ」という名前の由来が日本書紀にあることは『なのりそ考①』で触れました。衣通郎姫(そとほしのいらつめ)が詠んだ海の浜藻を、後の人々が「な告りそ藻」と呼ぶようになったのです。
日本の海には約2000種もの海藻が生育(※三重大学藻類学研究室HP参照)しているそうです。その中で浜に打ち寄せられてしばしば目にすることができる海藻ということになればある程度種類は絞られます。ホンダワラはその中の代表格といえるでしょう。
なのりそがホンダワラとされるのは、1803年に小野蘭山らによってまとめられた『本草綱目啓蒙』に上げられたなのりその様々な呼称が手がかりとなります。

馬尾藻 ナノリソ(万葉集) ナナリソ(和名抄) ジンメサウ ジンバサウ(雲州) タワラ(同上) ギンバサウ(備後) ギバサ(同上) キバサ(佐州) ホンタラ(同上) ホダワラ(京) ホンダワラ(同上) タワラモ(勢州)

馬尾藻は中国の古い本草書にある漢名です。地方でのいろいろな呼び名の中になのりそとホンダワラがあることが分かります。江戸の本草書ではなのりそとホンダワラは同じ海藻として扱われました。
そして、もう一つ。これも大変重要な手がかりになるのですが、平安時代中期に編纂された法令集『延喜式』では、十数種の海藻類とともに交易物として「なのりそ」が上げられており、古代では食用藻とされていたことがわかります。現在、ホンダワラは食材として一般的ではありませんが、海藻を扱ったサイトを見るとたいへん美味しいということが紹介されています。しかしそれには地方差があり、まったく食用とされないところもあるようです。
ホンダワラという名前もユニークですが、これはこの海藻にアズキ大の気泡がたくさんあって稲穂を連想させるため、俵の形にして「穂俵」と名付けて正月の飾りとしたことから起こったもののようです。これもまた古くから人々との関わりが大きいという裏付けになります。「なのりそ=ホンダワラ」に疑う余地はないように思われます。

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