莫告藻の花
万葉表記:名告藻、莫告、勿謂藻、莫告藻、名乗藻、名乗層、名乗曾
梓弓 引津の辺なる 莫告藻の花 採むまでに 逢はざらめやも 莫告藻の花
柿本人麻呂歌集(巻7-1279)
梓弓を引く、引津のほとりの莫告藻の花よ。花を摘むまでは逢わないというということがあろうか。莫告藻の花よ。
「莫告藻(なのりそ)」は海藻「ホンダワラ」のこと。面白い名前です。
古語において「な告りそ」というと「人に言うな」の意となり、「名告りそ」とすると「名告ってはならない」の意味にもなります。万葉の時代は相手の名前を問うことは求婚の意味があり、名前を教えることは求婚を受け入れることでした。「なのりそ」が詠まれた歌には、そういった男女の求婚の駆け引きが隠されているようです。
この歌の面白さは「莫告藻の花」にあります。海藻のホンダワラ類は花が咲くことはないのです。咲くはずのない「なのりその花」を摘むまでは逢わないことはないといっているので、いつまでも逢えることになります。
この歌のように五七七を2回繰り返す歌を旋頭歌といいますが、上三句と下三句とで詠み手が異なることが多く、この歌もおそらく男女が掛け合いで歌ったのでしょう。ちょっとふざけながら楽しそうに掛け合う様が想像されます。
帯では、花(想像上の花)が咲いている株を女の人として表現しています。太鼓中心部で枝の穂先を傾け「お名前は?」とやりとりしているイメージを演出しました。
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