かたかご
万葉表記:堅香子
堅香子草の花をよぢ折る歌一首
物部の 八十少女らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花
大伴家持(巻19-4143)
若い娘たちが集まって賑やかに水を汲んでいる。その寺井のほとりで咲く可愛らしいかたかごの花よ
万葉学者、鴻巣盛広の「万葉集全釈」から
「寺の境内の隅の方に、こんこんと湧き出る清水が堪(こた)えてゐる。その後方が直ちに岡になっていて、ゆるい傾斜面をなしてゐる。其処(それどころ)に美しいカタクリの花が一面に咲いてゐる。美しい里の処女らは水桶を携えて三々五々に相集まってゐて、ひそひそとささやきあふものあり、大声に談(かた)って笑ひ興ずるものもある。時は春、花も美しく人も美しい。映画でも見るような鮮明な場面である。」
大伴家持が越中(富山)に赴任していたときに詠んだ歌です。都を離れ、寒い北国で望郷を募らせる家持にとって、可憐に咲くカタクリの花は、春の訪れを告げるものであると同時に、都の乙女たちを連想させるものだったに違いありません。スプリング・エフェメラル、早春に咲く花の妖精たちのなせる幻想です。舞い上がる花たちで、都の乙女たちが舞っている様を表現しました。
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