やまぶき
万葉表記:山振、山吹、夜麻夫伎、夜摩扶木只、夜麻夫木只、夜萬夫吉
山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく
高市皇子(巻2-158)
山吹が一面を黄金色に染めて咲き飾る中にある山清水を汲みにいきたのだが、その道がわかりません
十市皇女が亡くなったときに高市皇子が詠んだ挽歌です。高市皇子の悲しみが伝わってきます。
十市皇女は天武天皇と額田王の間に生まれました。高市皇子とは異母きょうだいの姉にあたります。天智天皇の息子である大友皇子の妃となりますが、のちの壬申の乱で、夫の大友皇子は父である天武天皇軍の高市皇子と戦い、戦死してしまいます。その後どのような思いで彼女は日々を過ごしたのでしょうか。壬申の乱から6年後、謎の急逝をします。まるではかなく散る山吹のように・・・。
山吹の「黄」色と山清水の「泉」は十市の魂のある「黄泉(よみ)」の世界を暗示しています。高市と十市の間にどのような想いが隠されていたのか知る由もありませんが、そこにたどりつきたいという高市の悲しい想いが伝わってきます。水面に映る山吹の花は微かに揺らぎながら、時が止まったかのようにそこにあり続けます。
きものは背筋を境にシンメトリーな構図となっていて、左は「うつつ(現実)」の世界。右は「黄泉」の世界を表現しています。ただ、背紋の左右一部分だけがわずかに非対称になっていて、二人ががたいに探し求めているイメージをつくりました。
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