思ひ草(ナンバンギセル)
万葉表記:思草
道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ
作者不詳(巻10-2270)
道端の尾花の根もとで、頭をたれて物思いでもしているような思ひ草のように、今さら改めて何を思い悩んだりしましょう
もうあきらめようと思ったのでしょうか? 一途に想い続けようと思ったのでしょうか?恋について何か決断をした片思いをする女性の歌です。思ひ草は集中この一首だけです。
思ひ草とは何か? 竜胆、露草、おみなえし、しおん、ススキなど諸説いろいろあったようです。「愛する花を何にてもいう」などという説まで生まれました。
ナンバンギセルが定説となったのは、この草が、ススキや、ミョウガ、サトウキビの根に寄生する植物であり、植物学的にも当てはまるということによります。ススキの根元にひっそり咲くナンバンギセルは本当に物思いにふける姿に見え、最もふさわしく思われます。しかし、当時でさえ‘思ひ草’はあまりポピュラーではなかったのでしょう。それ故、みんながそれぞれ‘思う草’を想像するようになったのかもしれません。
かたちが南蛮のキセルに似ていることから付いた和名ですが、‘思ひ草’を正式な和名として推したいくらいです。
秋日和に野に出て尾花の下をかき分けながら思ひ草を探してみてはいかがでしょうか? 運よく思ひ草に出会えるかもしれません。
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