さねかづら考②

冬のさねかづら
冬のさねかづら

さね葛 のちも逢はむと 夢(いめ)のみに 祈誓(うけ)ひわたりて 年は経につつ
柿本人麻呂歌集 巻11-2479

さねかづらのツルが長くのびて絡みついているように、いつかまた必ず逢おうと夢で祈っているうちに、こんなに月日がたってしまった

集中にさねかづら(さなかづら)の歌は9首あるが、不思議なことにその実を詠んだ歌はない。多くは上歌のように「のちも逢はむ」に掛かる枕詞として使われている。それはどのような理由によるものなのだろうか。

万葉集に登場するツル植物は他に、くず、ふぢ(フジ)、さのかた(アケビ)、つづら(アオツヅラフジ)などが思いつくが、これら夏に樹木を覆い隠すほど繁茂するものは「のちも逢はむ」という想いを乗せる植物としては相応しさに欠ける。

常緑のさねかづらは夏から秋にかけては周りの葉に埋もれて目立たないのだが、冬の落葉の季節になると木々に巻き付きながら這い延びる姿を観察できるようになり、しかも真っ赤な愛らしい実を下げる姿が印象的に映る。

さねかづが「今でなくてもいつかまた遠いどこかでめぐり逢い恋を実らせたい」という思いを託し得る植物になったのは、その美しい実と常緑つる性木本であることが理由と考えられる。

それにしても、つくづく万葉人は自然の観察者だと思う。

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