あづさ考②-「梓弓」について

梓弓
法隆寺献納宝物のうち、七種宝物の梓弓 ColBase: 国立博物館所蔵品統合検索システム, CC BY 4.0 , via Wikimedia Commons

梓弓 引きて許さず あらませば かかる恋には 逢はざらましを
柿本人麻呂歌集(巻11-2505)

梓弓を引いてゆるめないように心を許さなかったら、こんなに苦しい恋には逢わなかったものを

「梓弓」は「引く」「射る」「張る」「音」などにかかる枕詞として使われます。枕詞自体は意味を持たないといいますが、上歌の場合は梓弓を引いてゆるめるという一連の動作が心の状態を引き出していることが分かります。梓弓は思い人を自分に引き寄せるという連想をともなうものかもしれません。

梓弓 爪引く夜音の 遠音にも 君が御幸を 聞かくし好しも
海上女王(巻4-531)

お伴の者が魔除けに梓の弓を爪ではじく夜の音。その遠い弦の音のようにでも、君のおいでがあると聞くのはうれしいことでございます

この歌の場合も単に枕詞というのではなく、梓弓を爪引くという行為に重要な意味がありそうです。
弓は一般的には戦いの道具や武器として使われますが、矢をつがえず弦を弾いて音を鳴らし、魔除けや邪気払いとしての道具としても使われたようです。
また、梓は古来、霊力や呪力のある木とされ、弓材にしたのも木の質が硬く強いというだけではなく、霊力があると信じられていたためのようです。
弓の弦を爪弾く音を伴って訪れる君。「訪れ」とはまさに「音連れ」なんですね。

正倉院には梓弓が三張残っていて、その材質を調べたところミズメ(ヨグソミネバリ)であることが解っています。ミズメは樹皮に傷をつけたり、枝を折って嗅いでみるとサロメチールのような匂いがするそうです。そのため「夜糞」の名が付いたのか?サロメチールなら芳香ではないかと思うのだが、、。今度試してみたいです。

ミズメ
ミズメ Bostonian13, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons
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