月の樹
古代イランのゾロアスター教の聖典「アヴェスター」によると、天空の海、あるいは泉の中に一本の聖なる樹があるという。その名前を「ハオマ」といい、その樹液を飲むと不死の生命を得るということです。
古代インドの神話「リグ・ヴェーダ」に登場する「ソーマ」も同起源とされ、それからつくられるお酒は神々の飲み物であり、神々の王「インドラ」も戦いの前にはこの「ソーマ」を飲んだとされます。ヒンドゥー教では月が神々の酒盃と見なされたため、「ソーマ」は「月の神」とも考えられました。
一方、古代イランでは、月は水を与えるものとして讃えられることから、天空の海にあるという聖樹「ハオマ」は「月の樹」とも考えられました。
「ハオマ」や「ソーマ」が実際にどの植物を指すのか、未だ解明されていませんが、一説によると、それは「葡萄」ではないかと推定されています。
葡萄は紀元前2000年頃にはメソポタミアで栽培が始まり、イランでも古くから人間との関わりがあるにもかかわらず、「アヴェスター」にはいっさい葡萄のことがあらわれないのは「ハオマ=葡萄」であるからではないか、というわけです。
正倉院の宝物に残る葡萄文を見るとき、それを「ハオマ」や「月の樹」として眺めてみると、新たなイメージが浮かんできます。
帯では、太鼓部を単純化した葡萄を丸くかたちづくり満月を表し、前部では三日月のかたちににあしらってみました。
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