風の影
風の影
タケ
タケ

万葉表記:竹、多気、太気

わが屋戸の いささ群竹 吹く風の 音のかそけき この夕かも
大伴家持(巻19-4291)


わが家の小さな竹藪の笹の葉を静かに揺らして吹く風の、その微かな音が響く夕暮れであることよ

竹を吹き渡る静かな風の音に、心の静寂を表現した歌です。
時を同じくして家持が詠んだ歌に

春の野に 霞たなびき うら悲し この夕影に うぐひす鳴くも(巻19-4290)

うらうらに 照れる春日に ひばり上がり 心悲しも ひとりし思へば(巻19-4292)

の歌がありますが、いずれも家持の内面に抱える苦悩、もの悲しい心境が伝わってくる歌で、大伴家持の絶唱三首と呼ばれています。

竹は草でも木でもない「有節植物」と区別されるそうです。数十年に一度しか花を咲かせず、しかも一度開花すると竹林全体が枯れてしまうという不思議な植物です。鳳凰は桐の木に棲み、竹の実を食べるといいますが、果たしてどのような実なのか・・・未だ見たことがありません。
以前、私の実家には大きな竹藪があって、台風が近づくと、葉や幹の揺れに風の強さを想像しながらいつまでも飽きることなく窓から竹藪を眺めたことを思い出します。竹は眼に見えないさまざまな風の姿を見事に表現することができる植物といえます。

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