万葉の花ごろもについて

万葉の花ごろもについて

万葉という時代

煌びやかな万葉の時代

煌びやかな万葉の時代

日本最古の歌集である「万葉集」が詠まれたのは、ちょうど平城遷都の時期に重なります。それは日本が国家としての「日本」を試行錯誤しながら築き始めた時代でした。正倉院に残る宝物の数々を見ると、このころの日本は大陸の国際色にあふれ、いまのわたしたちが想像する‘古い日本’のイメージとは少し違った、光や色彩にあふれる万華鏡の世界だったようにさえ思えます。万葉集にはそんな時代に生きた天皇から庶民に至る様々な身分の人々の、飾りのない心、素朴で純真な想いが込められています。

万葉びとと植物

万葉集の4500首に及ぶ歌の中の、約1500首もの多くに植物が詠まれています。万葉名で登場するそれらの植物たちは特定できないものも多く残されますが、約150種類の植物に分類されるといわれ、万葉びとが生活の中でいかに植物と密接に関わっていたことが分かります。

ぬばたま

万葉集に登場する言葉に‘ぬばたま’というものがあります。
黒・夜・暗・闇などにかかる枕詞です。言葉の意味は理解していましたが、それが‘ヒオウギ’の実のことだと知ったときは感銘を受けました。遠い遠い世界の言葉だと思っていたものが自分の身近な植物のことだったのですから。
光沢のある黒い実は確かに深い深い奈落に通じるような闇を想像させますが、万葉びとはなぜこんな小さな「ぬばたま」を枕詞として使ったのか・・・驚きと同時にそんな疑問も感ぜずにはいられませんでした。もしかすると、万葉の時代では共通認識できたぬばたまの何であるかを、我々はいつの間にか忘れてしまったのかもしれない。そんな想いが万葉の植物に対する好奇心の湧泉となり、「万葉の花ごろも」をつくるきっかけとなりました。

制作にあたって

デザインの構想を練るにはまずその植物の観察から始めなければなりませんが、それがなかなか容易なことではありません。四季折々の開花スケジュールに沿って野山を歩いてみても蕾さえ見つからないときも間々あるのです。そのため、やっと出会えたときの喜びはひとしおで、そのとき感じたインスピレーションを、歌から伝わる万葉びとの想いと絡み合わせ、ゆっくり熟成させることで、構想がやっとかたちとなっていきます。

私と万葉植物

日本の礎となった万葉びとが、大陸の風に吹かれながらどのような花に自分の心を託し、その思いを伝えようとしたのか、わたしはその一樹一草を余さず丁寧に眺めてみたい。そして万葉びとの愛した植物を題材にきものをつくることで、日本人が忘れかけている心の源流を表現してみたいと考えます。

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